大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 昭和24年(行)58号 判決 1950年12月25日

原告 中村定

被告 今治市長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十三年八月二十五日付でした原告所有の今治市新町三丁目百四十二番地の一宅地三十五坪五合五勺につき、今治市特別都市計画上の土地区画整理のための換地予定地処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求原因として次の通り陳述した。

右宅地は、原告が昭和二十一年十一月訴外山路常一からこれを買受け所有することになつたもので、現に原告はその上に住宅兼店舖を建築し、今治港発着汽船の乘降客を相手に土産物商を営んでいるものであるところ、被告は昭和二十三年八月二十五日付で原告に対し、被告が施行者として実施中の今治市特別都市計画事業上の土地区画整理のため右土地の換地予定地を同町二丁目地区に指定(飛換地の指定)した。然し、右換地予定地指定は以下述べる理由に依り違法の処分である。即ち右処分の行われる以前本件土地区画整理区内――本件ブロツク内――には、その北今治港棧橋前の通りをなす片原町に面して西から中川幸吉(その西側は新町三丁目に面して三〇・九五坪)大谷コマ(一九・一二坪)大谷ミツヨ(一五・〇坪)梶田伊三郎、竹内文太郎(三二・〇七坪)井手一郎(その東側は内港通りに面して四八・二八坪)、右の一区域と小路を隔て、その南に新町(三丁目)側に北から大館経一(右小路と新町とに面する角地に在り二八・八二坪)江崎トクヨ(六六・三三坪)檜垣清一(三一・七三坪)秋山基助(四四・一三坪)原告(三五・五五坪)眞鍋徳三郎(一七・五二坪)大谷ミツヨ(二四・八二坪)田頭仲一(二一・〇八坪)池内金造(四二・四七坪)近藤金一(三七・四七坪)早川義久(四八・九九坪)内港通側(新町の裏)に北から芥川繁男(前記小路に面して一八・七三坪)新田政治(三八・一二坪)大西正夫(二八・九九坪)矢野長吉(三〇・二坪)宇野花(二九・七八坪)河上キヨノ(五一・〇七坪)機帆船会社(五三・九坪)門田新三(三六・一坪)近藤岩治(一四・九坪)矢野伸(一一・七六坪)以上二十七名が夫々括弧内に付記した面積の宅地を所有していた。然るに、右地区は、土地区劃整理において片原町に面する(地域全部及び小路の南において大館経一、江崎トクヨ、芥川繁男、新田政治の宅地部分が緑地帶に編入され、新町側の大部分が道路拡張のためその敷地に編入されたので、著るしく面積が減少し、その結果新町側に北から大館経一(三〇・〇坪)秋山基助(三四・八四坪)大谷ミツヨ(前記片原町に面する一五・〇坪と合して三一・六四坪)池内金造(三三・五二坪)近藤金一(内港側に突抜けて三一・五三坪)早川義久(内港側に突抜け中浜町一丁目に面して三八・七八坪)内港側に北から新田政治(三〇・〇四坪)矢野長吉(三〇・二四坪)河上キヨノ(四〇・七三坪)宇野花(三〇・〇一坪)機帆船会社(四二・七五坪)近藤金一、早川義久が夫々前記從前の宅地の換地予定地として、括弧内に付記した面積の宅地の指定を受け、その余の者の中過少宅地として金銭清算を受けないものは、いずれも飛換地の指定を受けたわけで、前述の通り原告もその一人であつた。右の事実から明瞭なように大館経一、宇野花、矢野長吉の三名は、いずれも原告よりも地積が少ないに拘らず、從前の土地若しくはこれに準じる箇所に換地予定地の指定―現地換地―を受けているのであるが飛換地の指定を受けたものの中原告よりも地積の少ない檜垣清一は、從前の土地の反対側(新町三丁目に東面して)に指定を受けており、これらの者はいずれも土地区劃整理に因り利益を受けているが、少くとも損失を蒙つていないが、原告の換地予定地は、築港との間に相当距離があるので、現在通り土産物商を営むには著るしく不利となるものである。然るに、都市計画法の準用せる本件換地予定地処分の準拠規定である耕地整理法第三十條には、換地ハ從前ノ土地ノ地目地積等位等ヲ標準トシテ之ヲ交付ス。とあり、右規定の趣旨に徴すれば、本件の如き場合においては、原告よりも地積の少い前記大館等四名の中いずれかが原告の換地予定地に指定を受け、これに代つて原告が現地に指定を受けるべきが当然である。就中、大館は、地積最も少く同人は汽船会社の重役であつて、その住居は現に市内惠比須町に在り、同人の換地予定地はこれを將來同人が自ら使用するものでないことが予想され、しかも同人の從前の土地は緑地帶に編入せられたのであるから、同人は他の同様の者の取扱に準じて飛換地の指定を受けることが当然である。然るに、大館は、当時今治市土地区劃整理委員長であつた松原清一が以前市会議員に当選した際、その選挙事務長として多大の功績があつたので、同人がその恩義に報いるため、区劃整理委員長としての地位を利用し大館のため利益を図り、現地に換地を指定されるよう策動し、被告がこれに盲從したものでその反面、原告が本件の換地予定地の指定を受けることになり、その結果、原告は前述の通り営業上の利益を失い宅地の利用を減退せられることになるものである。

要するに、本件換地予定地指定は、その準拠規定たる都市計画法第十二條及び耕地整理法第三十條に反する違法の処分であるが、更に、上述の通り、これは原告ひとりに対し不公平な取扱をするものであつて、この点において法の下における平等を保証した憲法第十四條に違反し、大館一個人のために原告の財産権を犧牲に供しようとするものであつて、この点において財産権の内容を公共の福祉に適合するよう定めるとした憲法第二十九條に違反し、原告の幸福追及権に対しそれが公共の福祉に反しないにも拘らず被告が最大の侮辱を與えるものであつて、この点において憲法第十四條に違反し、被告が全体の奉仕者たる義務に違反して大館経一等一部の者に奉仕したものであつて、この点において憲法第十五條に違反するものである。斯様な憲法違反の行政処分は憲第法九十八條第二項に從つてその効力を発生しないもの、即ち無効であることが明らかである。

依つて、本訴を提起して本件換地予定地指定処分の無効であることの確認を求めるものである。

被告訴訟代理人は、先ず訴却下の判決を求め、本訴は行政処分の効力を爭うものであるから、行政事件訴訟特例法第五條第一項の適用があるものと解すべきところ、法定期間を経過後の出訴に係り不適法である。と陳述し、本案については、原告の請求棄却の判決を求め、答弁として次の通り陳述した。

被告が、昭和二十三年八月二十五日原告所有の本件宅地につき、今治市特別都市計画事業上の土地区劃整理のため原告主張通りの換地予定地処分をしたこと、本件ブロツク内の從前の土地所有者の氏名及びその位置地積並びに換地予定地指定の結果が原告主張の通りであることはこれを認めるも、原告に対する換地予定地指定が無効であるとの主張はこれを爭う。原告主張の通り、本件ブロツクは整理の結果いちじるしく面積が減少し、從前のそれに比して約四割に減少したので、そのため比較的多くの飛換地を指定しなければならなかつたものである。而して、右整理に当つては、通路の北側片原町に面する一区域中金銭清算しないものは全部これを飛換地に指定し、小路(巾約一間)の南側においては、新町側と内港側との間で著るしく宅地の等位が異なり、前者は後者よりも優位になるので、これを区分して扱つたものであつて、内港通りに面する矢野長吉及び宇野花両名がいずれも原告よりも地積が少ないに拘らず現地換地の指定を受けているからと言つて、原告とは比較の対照にはならないものである。新町側において整理の結果三十坪以下の過少宅地となるものは大館経一檜垣清一、田頭仲一、眞鍋徳三郎と原告の五名であつたが、その中大館経一の宅地は右の小路と新町の交叉するところの角地に在つたので優先して取扱い同人に現地換地を指定し、その余の者に対しては、夫々相当等位の飛換地を指定したものである。原告の換地予定地は新町二丁目が内港に通じる中浜町の交叉点の一角であつて、從前の宅地即ち本件宅地と比較して決して品位が劣るものでなく、他の者に比較して不利な取扱いをしているものでは決してない。

從つて、本件換地予定地指定は、都市計画法第十二條及びその準用規定たる耕地整理法第三十條に從つて適法に行われた処分であつて、憲法に違反する無効な処分でないのは勿論、取消さるべき程度の瑕疵さえもないものである。(各立証省略)

三、理  由

本訴は、後述する通り原告の憲法違反を原因とする無効確認の請求が主張自体失当として排斥さるべきものであつて、結局本件換地予定地指定は、都市計画法第十二條の準用する耕地整理法第三十條の適用に当つて裁量を誤つた違法の処分であるとの主張に帰するものであるところ、裁量権の行使を誤つた程度の瑕疵は本件換地予定地処分を無効ならしめる原因とするに足りないのであつて、これに相應する請求は、処分の取消を求める趣旨の範囲に妥当するに過ぎない。然るに、行政処分の無効確認を求める訴とその取消(変更)を求める訴とは、いずれも行政処分の効力を爭うものであつて、対象たる処分の瑕疵の程度により、両者の区別を生じるに過ぎず、通常の民事訴訟の確認訴訟と形成訴訟における如き性質の異る請求でないと解するを至当とし、從つて行政処分の無効確認の請求は、一般にその取消変更を求める請求おも当然包含しており、無効確認の請求が理由のない場合においても、当該処分に取消し得べき瑕疵があると認められるときは当事者の意思に反しない限り職権を以つて取消の判決をなし得べきものと言うべきである。本件は、結果から考えて後述する通り、原告の請求が理由ないことに帰着するけれども、前述の通り、その主張において換地予定地指定の取消を求めているものと解せられるから、その前提において判断するを相当とする。然るに、この場合は、行政事件訴訟特例法第五條第一項の適用があり、本訴は、処分の行はれた昭和二十三年八月二十五日から六月の不変期間を経過した後の提訴に係り、不適法な訴と認めるべきものの如くである。然しながら、都市計画事業上の換地予定地指定処分は、後から行われる換地指定処分の前提となるもので、これにつき換地予定地指定処分と別箇にその効力を爭い得るものとすれば今茲で本訴請求を前記の理由に因り排斥したとしても、原告は正式に換地指定を受けた際更めて出訴することとなり、斯くては、当事者双方に執つても、又裁判所に執つても不利不便この上もないことで、訴訟経済上の見地から、この際本案について判断することは、時宜を得た措置と言うべく、要するに、本件は、右行政事件訴訟特例法第五條第一項の適用の例外をなすものとの解釈を採り、進んで本案について審案すべきものとする。

本件宅地が原告の所有に係り、原告は現にその上に住宅兼店舖を建築し、今治港に発着する汽船の乘降客相手に土産物商を営んでいること、被告が昭和二十三年八月二十五日今治市特別都市計画事業上の土地区劃整理のため、原告に対し右土地の換地予定地を今治市新町二丁目地区内に指定したこと、本件ブロツク内の從前の土地の所有者の氏名及びその位置地積並びに換地予定地指定の結果、要約すれば、從前新町側において片原町に面する一小地区との間の巾一間の小路と交叉する角地に在つた大館経一は、從前その地積が二八、八二坪であつて、原告よりもこの点で劣位の地位に在つたものであるに拘らず三〇坪に増換地して現地に予定換地の指定を受けたこと、内港通りの側における矢野長吉及び宇野花の両名はその從前の地積が夫々三〇、二坪及び二九、七八坪で原告よりも地積が少く、他に原告を凌ぐ何らの理由がないに拘らず、夫々三〇、二四坪及び三〇、〇一坪として現地に換地予定地の指定を受けたこと、新町側において檜垣清一は從前三一、七三坪の宅地を所有していたものでその地積は原告よりも少いに拘らず、同町從前の宅地の反対側に換地予定地の指定を受けたことは当事者間に爭なく、弁論の全趣旨に徴して本件土地区劃整理地区内の宅地の最小規模の地積は三十坪(百平方米)であつて、原告の指定を受けた換地予定地の地積は、約三十坪であることを認めることができる。

而して、檢証の結果によれば、原告の換地予定地は本件宅地から約三十五間今治港の反対の方向(南)に隔つた箇所で、新町二丁目と同三丁目との間を交叉する中浜町通りを突き抜けて二丁目の西側角から二軒目であつて、この附近の街路の状況は本件宅地附近と略同様である事、原告は現在の店舖において果物及び菓子を商つていることを認めるに足るところ、原告が汽船の乘降客相手に現在と同様の商賣を営むについては、換地予定地は本件宅地よりも恐らく不利な立地に在ることは想像に難くないけれども本件ブロツク内の土地所有者が片原町側の者から順次目白押しに換地を指定せられる場合―これは耕地整理法第三十條の規定の趣旨に最も忠実な指定の仕方である―のことを考えると、原告は、当然本件宅地から南寄りに移動しなければならぬものであつて、その位置は、原告の主張する從前の周囲の状況及び檢証の結果から推して、本件換地予定地との間の略中間辺りまで移動することとなるものと思料されること並びに原告の営業は土産物商と言つても果物と菓子の商賣であつて、斯様な品物の商賣の相手は必ずしも旅客に限るものではなく、場合に依つては他の有利な営業に轉向できないわけではない事情を考え合はすとき、換地予定地と本件宅地との等位は略同等のものと推断できるところであつて、或いは、仮令両者の間に些少の差等があるとしても、それは、耕地整理法第三十條を適用するについて許容された裁量権の行使の範囲を超えた程度のものと言うことはできない。

尤も、原告が現に本件宅地上に住宅兼店舖を建築しこれにおいて土産物商を営んでいることは前述の通りであるところ、証人重松栄吉の証言に依れば、大館経一の現在の住居は同市内惠比須町に在り、同人は回漕問屋に勤めて給料に依る生計を立てているものであることが明らかであつて、その從前の宅地は、差当つて同人に緊急の必要のないものと認めるに足り、その地積は原告よりも六坪七合少ない点を考えると、同人に対し現地換地を指定し、原告に対し飛換地を指定したことは、或いは不相当な処置と言えないこともないようであるが、被告は、同人の從前の宅地が角地であつたので、宅地の評定價格において原告のそれより優位に在る点を考え斯様な処分をしたものと認められ、右は、勿論被告の裁量権の範囲に属するものと言うべく、これを以つて修理に反した処置とは言えない。又檢証の結果によれば本件ブロツク内の内港通りに面する宅地は新町側に比べて店舖としての利用價値が数等劣ることが明らかであるから、矢野長吉及び宇野花が現地換地の指定を受けているからと言つて、同人らの宅地に原告が代つて換地の指定を受けた場合、原告がこれに満足するとは到底推測できないところであつて、右両名については勿論、原告の北側二軒目に在つて原告よりも地積において約四坪少い檜垣清一が、從前の土地の反対側の新町に東面して飛換地の指定を受けたことも亦、被告の裁量権の範囲における処置と言うべきである。

これを要するに、土地区劃整理の結果今治港に直面することになつた大館の如きは、過分の利益を受けたこととなるかも知れないが、一方、原告はその結果特段の利益を受けなかつただけのことで、この場合、原告が利益の均分を要求する権利を有するわけのものでなく、本件換地予定地処分は、耕地整理法第三十條に違反しない適法の処分と言うべきである。

而して、本件換地予定地指定処分に因り宅地の利用を阻害されたとする原告の主張は、換地処分に因り不利益を受けたとするものに過ぎず、換地指定が耕地整理法第三十條の規定に反した処分であるとの主張に当然包含されていると解すべきもので以上の判断を以つて盡くされたものと言うべく、これが都市計画法第十二條第一項に違反するとの主張は成立しない。

そこで、原告の憲法違反の主張につき一括して判断する。総て、処分は、一部重要な国務行爲として直接憲法に準拠して行われるものを除き行政処分と司法処分とを問はず法律又は政令以下の諸種の命令に基ずいて行われるものであつて、法律又は命令に準拠する処分は、直接憲法に準拠する処分が憲法に違反すると言うと同様な意味において、憲法に違反すると言うことはできない。法律に準拠する処分の効力は、先ず法律に違反するかどうかが判断されなければならない。若し、当該処分が違法であるとして無効を確認され、又は取消されれば、即ちこれで足るのであつて、進んで右の処分が憲法に違反するかどうかの判断は必要もないしすべきでもない。若し、原告の主張に從つてこの場合においても憲法違反があり得るとすれば、例えば農地買收処分が裁判所において違法と判断せられる場合の多くは、憲法第二十九條に違反するものとして、憲法第九十八條に從つて無効であることになるべき筈である。然るに、実際においてはそのような扱いでないことは衆知の事実であつて、それはこの場合が憲法違反に該当しないからである。言うところの憲法違反の処分とは、当該処分は法律に違反しないが、法律そのものが憲法に違反するとせられるとき、右の処分について言われるところのものである。刑法第二百條を適用して被告人を処罰した判決は(成程適法であるけれども)法の下における平等を宣言した憲法第十四條に反して違憲であると言うのが、憲法違反の主張―理由の有無は別として―として成り立ち得るのである。傷害致死の事実を殺人罪と認定して刑法第百九十九條を適用したことは、違法であると共に、それは法律に依らなければ刑罰を科せられないことを保障した憲法第三十一條に違反するとの上告理由は、憲法違反の主張として扱うことはできない。―右の場合は実は原審の事実の認定を誹毀することになるに止る。要するに、処分が違法であるかどうかの問題と、違憲であるかどうかの問題は、次元を異にしているものであつて、行政処分無効確認の訴において、処分は違法である。仮に適法であつたとしても違憲であるとの訴はなし得るかも知れないが、その原因を一次的にすることはできない。後者については、当該法律の規定が憲法に違反するとの法律上の主張が請求原因となされるべきであつて、一の処分が違法であると同時に違憲であるとの主張は、主張そのものとして成り立ち得ないのである。

これを本件について言えば、原告は、換地予定地処分がその準拠規定たる都市計画法第十二條耕地整理法第三十條に違反すると主張しながら、同時にそれが準拠規定でない憲法第十四條第二十九條、第十四條、第十五條に違反するものであると主張するものであるから、主張自体失当であつて、これ以上判断の要はなく、又判断の方法もないわけである。

序でながら、憲法第九十八條の法意について一言すれば、この規定は、憲法に違反する法律命令又は詔勅等廣義の法律及びこれら憲法に違反する法律に準拠する処分が無効であること、実は国家の法体係の組成上当然の事理を宣明したものであつて、経過的規定として特別の意味を有するものに過ぎず、憲法に違反しない法律に準拠して憲法に違反する処分があることを予想したものではない。

以上に依り、原告の本訴請求は理由がないこと明白であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條、第九十五條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 加藤謙二 橘盛行 水地巖)

名古屋高裁金沢支部 昭和25年(ネ)第6号の原審判決の主文および事実

主文

被告が昭和二十三年十二月二日爲した原告の別紙目録記載農地に対する訴外河内村農地委員会の農地買收計画不服の訴願は相立ないとの裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、

その請求原因として、

訴外河内村農地委員会は原告所有別紙目録記載農地を昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き、自作農創設特別措置法第三條第一項第一号の不在地主所有の小作地であると認定して、これを買收する計画を定め昭和二十三年八月七日その公告をした。原告は右買收には不服であつたので同月十七日異議の申立をしたところ、却下されたので、更に被告農地委員会に訴願をしたが、同被告は同年十二月二日原告の右訴願の申立相立ずという裁決をし、該裁決は同月十五日原告に送達された。しかし乍ら、右買收決定には左の違法がある。

(一) 原告は本件農地の買收基準日当時、河内村に住所を有しなくなつたけれども、これは昭和十二年一月十日原告が現役で應召した爲であつて、右の事由は自作農創設特別措置法第二條第四項同法施行令第一條第三号にいわゆる昭和二十年八月十五日以前の召集であるから、同法第四條第二項により原告は買收基準日当時、河内村に住所を有する者とみなされ、結局別紙目録記載農地は原告が所謂在村地主として所有していた農地となるわけである。從つて、前敍のとおりこれを不在地主所有の農地として、買收するのは違法である。

(二) 而して、原告は別紙目録記載農地を從前より自作していたのであるが、右のように應召した結果これら農地につき自ら耕作の業務を営むことができず、且つ又後に残された母フデと妹信子ではこれを継続することも出來なくなつたので、已むなく原告の應召不在中ということで、一時原告の伯父である林憐正に右農地を賃貸することにした。さようなわけで、かかる農地は自作農創設特別措置法第五條に定める特別事由による一時賃貸農地として、政府においてこれを買收しない農地である。

(三) 一方原告が昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基いて本件の農地を買收されるときは、同日現在における所有者たる原告は自作農創設特別措置法第六條ノ二第二項第四号に定める所謂遡及買收の請求をした者である右農地の買受者に比較しその生活状態が著しくわるくなるという結果になる。そうすると、これ又同項により政府において買收してはならない小作地に該当するわけである。

(四) 又右農地の買收には、石川縣農地部長其の他の者の使嗾に因り右河内村農地委員会委員が自己の意思を歪曲し、事実を無視して本件の買收を強行した違法がある。

以上孰れの点からしても右買收は違法である。然るに、被告農地委員会は右の違法行政処分を支持し、昭和二十三年十二月二日、原告の前示訴願の申立相立ずとの裁決をしたのは違法である。仍て右違法裁決の取消を求めるため本訴に及ぶと述べ、被告の主張事実を否認した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、

その答弁として、原告主張事実中、訴外河内村農地委員会が原告所有別紙目録記載農地を原告主張のとおりこれを買收する旨の計画を定めたこと、而して昭和二十三年八月七日その公告がなされ原告はこれに対し同月十七日異議の申立をしたところ却下となつたこと、そこで更に被告農地委員会に訴願をしたところ、昭和二十三年十二月二日原告主張のような裁決が爲されたこと、原告は昭和十二年一月十日現役で入隊、ついで應召したこと而して昭和二十年十一月二十三日当時、河内村に居住していなかつたことはいづれもこれを認める。しかしその他はこれを爭う。即ち、

(一) 原告は昭和十二年一月現役で入隊し、引続き日華事変に参加、終戰後は国立横須賀病院に勤務していたのであるが、この当時迄は應召の延長と考えられるとしても、原告は昭和二十一年六月同病院を退職してから約半年以上も金沢市に居住し、日本衞材株式会社に勤務して來たこと、これより先、昭和十三年五月頃すでに原告の留守中その家族はその耕地を他に賃貸して金沢市に轉居し爾來訴外別所次吉方に居住して來たこと、殊に、昭和十五年中にその留守宅が賣却されたから、原告の住所も遅くとも、その頃には金沢市に移轉したと認められること、これらの諸点から原告の不在は應召による一時不在とは考えられない。

(二) 而して又、本件農地が賃貸されるに至つたのは、決して原告の應召に原因するものではない。即ち、原告の母フデは原告の入営後も引きつづき農耕に從事していたのであつて、偶々昭和十三年五月頃、原告の妹壻別所次吉が召集されたので、その留守宅を援助するため右農地を他に賃貸した次第である。だからこれ又原告の應召による一時賃貸というわけにはいかない。

(三) 原告主張の請求原因中(三)の違法事由は自作農創設特別措置法第六條ノ二を誤解するものであるし、請求原因中(四)の主張は河内村農地委員会委員を誣うるものであるのみならず、同委員会において、原告が昭和二十二年三月以後その引上げを爲した小作地につき、多大の買收除外を決議した事実に徴しても、同委員会委員が独自の意思決定を爲したこと明瞭である。

と述べた。

(立証省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例